10周年特別企画「俺の、話をして」 UPLINK石井雅之さん

こちらは、志の彦がお世話になってきたみなさまに、10周年のお礼まわりと 称して、
志の彦自ら馳せ参じ、「志の彦」について語っていただく特別企画。
迷惑極まりない「俺の、話をして」。ここに開幕でございます。
記念すべき第1回目にお付き合いくださったのは、
奥渋谷のマイクロミニシアター「UPLINK」で志の彦の独演会を担当する石井雅之さんです。

 

▼体育会系なところに、シンンパシーを感じた

「他の方と決定的に違うのは、体育会出身なとこですかね。あと、いい意味で普通!」と、石井雅之さんは話す。それまで、落語家は、高校や大学の落語サークルや落研、あるいはお笑い芸人からその道に入るもの、というイメージを持っていたという。

「中高大とずっとサッカーをやってきて、体育会系と。え、そんな人も入門志願するんだ!って、はじめてプロフィールを聞いた時、単純に興味が沸きました。あとね、僕、広島県・如水館高校の野球部出身なんですよ。甲子園に行くくらいがんばってたから、スポーツに入魂してきたってとこに、びんびんシンパシーを感じた」

そうは言っても石井さん、志の彦がはじめて定例会の申し込みに現れた時、こう突きつけている。

「2回演ってみて、40人以上、客が入ったら考えます」

さてこの数字、どのくらい大変なことなのかちょっと想像しづらいかもしれないのでご説明をば。
まず「UPLINK」独演会会場の最高収容人数は60人。石井さん提示の40人だとおよそ7割の席を埋めることになる。
この頃、志の彦は二ツ目に上がるか上がらないかの前座期間。ツテも人脈もあるわけではなければ、一人で集客をした経験もない。寄席ではなく、独演会に参加した方ならわかるかもしれないが、大きなハコで席がガラガラというのは、演者はもちろん、客のモチベーションも大きく下がる。

「かなり大変だろうってわかっていましたよ。でも、40人以上入れば、うちの看板イベントと言えますからね」
シンパシーゆえのシゴキ。これに志の彦はおおいに気合の入った表情で「やらしてください!」とテンポよく打ち返した。
「がむしゃらだな、いいな、って。さらに、公演当日、開けてみてびっくり。初回公演も2回目もともに満席だった。僕らサイドはHPとチラシ以外集客なしでこの数字です。すごいっすよ」
こうして「立川志の彦落語会in UPLINK」は定例開催となったわけだが、その裏には、 体育会的精神で繋がった二人の熱きミニドラマがあったことを、お見知りおきいただきたい。

▼初心を貫く男

実は石井さん、「UPLINK」初回公演で、はじめて志の彦の舞台を見たという。
「噺に入ると、ぐんと圧が強くなるんです。鬼気迫るものがあった。やってやるぜ!っていう。空気に波動が伝わるのは生で見てるからこその楽しさだと」
それまで「UPLINK」では単発の落語会は行われていたが、毎月の定例会での落語会の開催は、実は志の彦がはじめて。
その頃から、落語ブームの兆しを感じていた石井さん、2回目の公演後、志の彦にかけてみる決心がついた。
「また、二ツ目になりたてっていうのも良かった。これからの伸びしろがある人はそれだけでエネルギーがあって、見ていて応援したくなる。こっちまでなんかウズウズするんですよ。あと、志の彦さんはそれが変な方向にとんがってない。言っちゃえば、普通なんです。普通ってすごいですよ。過剰な力みがないからこっちの気持ちも素直になれる」

その後、順調に定例会は開催され本日に至れば……いいのだが、集客が低迷した時期もあったという。
「その時に、誰かと一緒にやるのはどうですか?って提案してみたんです。二人会とかね。せっかくなら、うちならではの色を出せる落語会もしてみたいなって。そしたら、『UPLINKは、自分のホームにしたいから、ストレートな球を投げさせてください』って。そのあと僕もしつこく誘ったんですけど、テコでも曲げない。結局僕が折れました。でも結果、それでよかった」

志の彦は我慢強く独演会を続け、一度落ちた客足は、定例会を追うごとにゆるゆると回復していった。
「はじめは、志の彦さん周りの知り合いの方が落語会に来て、二ツ目昇進フィーバーみたいな盛り上がりを見せていたんですけど、その波が一旦引いたんでしょうね。そしたら、今度はちゃんとした志の彦さんの落語のファンがくるようになった。ファンが定着したっていうんですかね。それから、うちのHPをみた新規のお客さんも増えてきた。このままストレート勝ちしたらかっこいいですよね。見守ってます

▼「UPLINK」という場所

石井さんは、「UPLINK」を映画上映のためだけの場所と捉えてはいない。
「マイクロミニシアター」そう、石井さんは言う。最小限の設えで訪れた客にいかに大きな宇宙を見せるか。
想像力を掻き立て、広がりを意識させるのは、引き算の美学あってこそだ。そこに、落語がピタリとはまった。
「落語は話し言葉と限られた身体表現だけでそこにはない映像を脳内に映し出します。言うなれば志の彦さんは映写機。その意味では映画とリンクします。でも、落語は圧倒的に生。演じ手と客との生まれたばかりの感情がダイレクトにぶつかってスパークする」
会場が沸けば、それに呼応して演者も昂まり、それがまた客に伝わって相乗的に舞台は盛り上がりを見せていく。爆発的な音楽があるわけでもなければ、無限に広がるキャンバスがあるわけでもない。そこにはただ、熱を持った調和がある。

「こいつ、何かあるな、という片鱗を常に見せつけていかないと。でもこれは、僕ら劇場側も同じ」

志の彦は、10周年の記念の会を、10月2日(月)、「UPLINK」で迎える。
「集客数キープの約束を一貫して守って頂ければ、うちは永遠にホームグラウンドであり続けます」

石井さんの愛の鞭が、緩むことはない。

◎快く付き合ってくれた人:「UPLINK」イベント担当 石井雅之さん

◎快く場所を提供してくれた店:奥渋谷「む鉄砲」

◎話を聴いて書いた人:ブルゴーニュ酒粕
◎写真を撮った人:麹室ラングドック
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